有閑多事  1





それはいつもの日常

ジープで移動して 悟空が「三蔵 腹減った〜!」を連発する。

そして 妖怪のお客さん達による 襲撃。

ただ いつもと違ったのは、三蔵の法衣が 破れてしまったこと。




三蔵は 召霊銃で妖怪を倒すために、あまり妖怪との間合いは詰めない事が 多い。

弾が なくなれば、新しい弾を 装填しなければならないからだ。

これだけ 襲撃に遭い、日常化すれば 弾の装填スピードは すばらしく速い。

妖怪との間合いを計りながら、手元など見なくても その行為は行われていく。

今日の妖怪には、弓を使うものがいて 三蔵は それの攻撃を除けながら

戦っていたが、風にあおられた法衣が 飛んできた矢の一本によって 

木に止めつけられてしまった。

次の矢から 逃れるために、三蔵は 法衣が破れるのもかまわずに 動いて避けた。

それから しばらくして 戦闘は終わり、一行は 次の町に移動して 宿を取った。






三蔵は、破れた法衣から 私服の黒いシャツとジーンズに着替え

脱いだ法衣を、つくろい物担当の に差し出した。

三蔵一行で 女は彼女だけ、まして 出来ないことはないという スーパー神女の

には、八戒同様 宿に着いてからの仕事は多い。

それでも 八戒のおかげで ずいぶん 軽減されている。





三蔵から法衣を受け取ると、つくろう所を広げた だったが、

三蔵に向かって ため息をつくと、首を横に振った。

「三蔵、これだけ酷いと、つくろえないわね。これ以外に法衣は何枚持っているかしら?」

新聞をひろげて 煙草を吸っていた三蔵は、針仕事のための明かり取りのために

窓辺に座っている に向かい「1枚だ。」と、答えた。

「洗濯替えに もう1枚はどうしてもいるわね。よく知らないけれど、法衣って

どこかに売っているものなのかしら?

売っているのなら、この街は意外と大きいから 買ってくるわ。

三蔵、どこへ行けばいいか教えてちょうだい。」

三蔵は の言葉に 新聞を広げたまま 「どこにも売ってねえ。」と、答えた。




「じゃあ、縫うしかないわけね。わかったわ。

私、呉服屋さんまで行ってきますから、この法衣はこのままにして置いてください。」

そういい置いて、は 買い物に出かけていった。

は 観音のカードを 預かっているので、買い物は 三蔵の意思に左右されない。

三蔵のものを縫うのに、彼の意見は聞かれてもいない。

面倒がなくていいな そう思う自分がいる一方で、どこか少しさみしい三蔵だった。





しばらくすると 男物の法衣用の反物を 抱えて、は帰ってきた。

「行って参りました。外は埃っぽくて、まいったわ。

先に お風呂使ってもいいかしら?」と尋ねる、

「ああ、かまわない。」新聞から顔も上げずに三蔵は答えた。

浴室からの水音は、どこか艶かしい。わずかだが 鼻歌も聞こえる。

三蔵の耳にも それは聞こえてきた。

いつもは 自分が他の部屋に行っている内に、入浴する程 気を使うのに今日は

やることがまだあるせいか、珍しく 何時になく早く入浴しただった。





早々とあがってくると、仕事に取り掛かる。

破れた法衣に、ものさしを当てながら は 必要な寸法を測っては、

一人つぶやきながら 手帳に書き入れている。

裄、身幅、袖幅、袖丈、着丈、襟下、襟幅、袖付け、奥身幅、等など・・・・。

その数は 三蔵が思っていたよりも 多かった。毎日 着ているものを作るために、

それだけの 数の寸法が必要だとは・・・・・・・、平面的で直線のみで構成されている

着物という形を成している 法衣というものが、それほど 複雑とは思っていなかった。

新聞の紙面に光を当てるために、とは背中合わせに 座る三蔵だが、彼女が

法衣をいかにして 作っていくのか見てみたくなった。

新聞をそっとたたむと、椅子の背にひじをかけて 窓辺のを背中越しにうかがう。





三蔵が 見ているとも知らずに、寸法を取り終えたは、

反物を持つと 寸法どおりに反物をたたんでいく、次に 各パーツにはさみで裁ち、

幅や縫い代を へらで印をつけていく。それが終わると、はようやく 

背もたれのない丸椅子に座り、針に糸を通し 縫う作業に取り掛かったようだ。

どこを縫っているのか、何を縫っているのかがわからないため、三蔵の目は

の後姿に注がれることになる。




入浴後時間が経っていないために、の艶やかな洗い髪はまだ濡れている。

邪魔になると思ってか、1つに束ね ねじって上に上げ 大きめのくしで留めている。

そのため 普段は見えない 日に焼けていない 白く細いうなじが見えている。

そこは 艶を放ち、しっとりと息づいている。

不意に 三蔵に 欲望が沸き起こった。

うなじに 唇を寄せ きつく吸い上げて 紅い自分の印をつけたい、

甘い吐息を吹きかけて 頬づりをして、滑らかな肌を頬に感じたい、

唇と舌をはわせて 今 が どんな味がするのか 味わいたい。

ただ見ているつもりだった三蔵をさいなみ 誘っていた。




そっと 立ち上がると、の後ろに近寄って行く。

もう少しで その白いうなじを味わえる   と、思った瞬間・・・・んっ!?

ぐっと自分のあごを強く掴む手に、阻まれた。

「三蔵、何をしようとしているの? ・・・・やめておいてね。 

そんなことされると、手元が狂って針で指を刺してしまうわ。お願いよ。」

に 拒否され 逃げようとすれば ねじ伏せてでも従わせるが、

お願いという形を取られると、三蔵は 弱くなる。

渋々 から離れて、元いた椅子に戻った。





それでも からは 目を離したくなくて、

三蔵は 誤魔化すために 煙草を吸いながら ただ 見ていた。

髪が乾いてきたのか、先ほどお預けを食らってしまった 白いうなじに、

後れ毛が 何本か落ちて来ていて、ただでさえ 誘われていた三蔵には

これでもかという程の 色気を放って手招きしているように見えた。

邪魔はしたくなかったが、(がまんできねぇな。)そう思うと、

自分の椅子を の座る椅子の真後ろに動かし、

そこに腰掛けると 「。」と、優しく呼びながら 彼女の細い腰にそっと

自分の両腕をまわして、後ろから優しく抱きしめた。





急に動くと 針で指を刺したり、ハサミで傷を作ったりするかもしれない。

そんなことには絶対ならないように、気をつけながらの抱擁。

「このままでも いいか?」いつもの強気な物言いと違い、少し遠慮がちに問う。

今度は 拒む様子もなく 「ええ、いいわよ。それ以上動かないでね。」と、背中越しに

返事をしながら、縫い物の手は休めない 




2人の体温が ゆっくり混ざり合い、お互いの存在を 感じあう甘いひととき。

、それ 何時出来るんだ。」背中に頬をつけたまま 尋ねる三蔵。

針を操る手を 休めないままに「そうね〜、今夜がんばれば 明日の宿で仕上がるかも、

でも 到着が遅いと 明後日かな。」と、答える。

「電気の下でまではやめとけ、目が疲れるだろう。」さりげない いたわりの言葉。

「優しいのね、ありがとう。替えの法衣が汚れる前には、仕上げるようにするわ。」

の声が 背に当てた耳から じかに伝わってきて、いつもより 身近に感じる。





先ほどの 衝動的な欲望とは違う、優しい気持ちのままに 頬をそっと移動させ、

うなじに持っていくと 後れ毛に息を吹きかけて 動かし、

うなじに唇を落としてキスをする。

「三蔵、邪魔しない約束よ。」やんわりと 責める言葉で、注意をするが

嫌がったりしないのは 三蔵が、甘く優しい空気をまとっているせいだろう。

(わるくねぇな。)それ以上は 何もしないで、ただ 抱擁を続ける三蔵だった。





旅のあいまの 心安らぐひと時は 窓辺での針仕事が できなくなる夕暮れまでの、

ほんの短い時間しか許されない。

明日も知れない旅を続ける 恋人達には、何よりも大切な 時間になった。









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